第1章 サンタシ編

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  巨大な大陸が二つ、海を隔てて、羽を広げたような形をしている。 右側に位置する大陸にはゴーディアと、左側に位置する大陸にはサンタシと記されている。 左側の大陸は右側の大陸と比べると少し大きく、北の辺りは雪が積もっている様子が描かれている。 おそらく、南の方は南国のような気候となっているのだろう。 大陸から千切れたような小さな島の絵が無数にある。 対してサンタシは大陸の半分以上を占め、その下にいくつもの小国が連なっていた。 「う……そ」   信じられないことを聞かされた朱音は、愕然としてその地図をポサリとベッドの上に落とした。 「気持ちはわかる。おれ達の予想だが、おそらくは君は、ゴーディアの王の命(めい)でアースの地から贄(にえ)として連れて来られたのだろう」 「に、贄……?」   フェルデンの口から出たおぞましい言葉は、朱音を震え上がらせるには十分であった。 「だが、なぜわざわざアースの地から連 れて来なければならなかったのか、何を目的にしているのかはわからない……」   ベッドに落ちた本を拾い上げながら、フェルデンは溜め息を溢した。 「やだ……、わたし一体どうなるの!?」   ガタガタと真っ青になりながら震える朱音を哀れみの目で見つめると、フェルデンはそっと朱音の髪を優しく撫でた。 「怖がらせて悪かったな。でも、大丈夫。おれ達が君を絶対守ってやる」   フェルデンの手は逞しく、それで髪を撫でる手はとても優しかった。 「わたし、元の世界にもどれるよね……?」   フェルデンの手がピタリと静止する。 「正直なところ、おれには分からない……。でも、陛下直属の術師なら何か分かるかもしれない」 動揺はしているものの、僅かな希望を抱いているか朱音の表情を、フェルデンは少し淋しそうな微笑みで見つめた。 「陛下?」 「サンタシの王、ヴィクトル・フォン・ヴォルティーユ陛下だ」   朱音は不思議そうに首を傾げた。 「ヴォルティーユ?」   フェルデンはくすりと笑みを溢した。 「そう、ヴィクトル陛下はおれの兄だ」 「……えええええええええええええええええええええええええええ!?」
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