第1章 サンタシ編

19/29
前へ
/542ページ
次へ
「じゃあ、いつになったらその魔力の効力ってのがなくなるの? こんなところにずっと閉じ込められて、わたし頭がおかしくなりそうだよ!」   ロランはぷいと朱音に背を向けた 「お前は本当に頭の悪い女だな。そんなこと僕にわかる筈ないだろ! だいたい、僕がその掛けられた魔術を解こうとしたことも既にフェルデン殿下から聞いているだろう!」 ロランは国王お気に入りの術師で、自身もその能力に自信を持っていた。 それなのに、朱音にかけられた魔術が解けないということでひどく自尊心が傷ついているようであった。 「とにかく、その魔術の効力が切れるのはかけた本人にしかわからない。ぼくから言えるのは、それを掛けた奴ってのが、相当の魔力の持ち主だってことくらいだ」   ロランの服を引っ張っていた朱音の手がスルリと解けるのがわかった。 エメは心配そうな表情のまま、カップにティーを注いでいる。 「だって……、ロランもフェルデンもあんまり来てくれないじゃない……」   しゅんと俯く朱音は年下の筈のロランよりも不思議といくらか幼く見えた。 「お前! 殿下のことを呼び捨てに……!」   真っ青になって叫ぶ。 「フェルデンがそう呼べって」   ぶつぶつと膨れっ面で朱音は呟いた。 「ロラン様、アカネ様の言っていることは本当のことです。フェルデン殿下は確かにアカネ様にそのように呼ぶようにと日々仰っています」   エメが困ったような笑いを浮かべながら、ポットをテーブルの上に静かに置いた。 「さあ、ハーブティーが入りましたよ。ロラン様もどうぞお掛けになってくださいな。サンタシが誇るリリーの葉とチチルの実を燻して作ったハーブです。ストレスを緩和してくれる効果もあるんですよ」   本当にこの娘の気配りにはいつもながら感心してしまう。  
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加