第1章 サンタシ編

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【5話 切れた効力】 ある朝、とんでもないことが起きた。 「******」   昨晩まで確かに理解できたはずのエメの言葉が、聞いたことのない響きとなって、突然理解できなくなったのである。 「な、なに? エメ??」   何度聞き返しても返ってくる言葉は全くもって理解できず、朱音はただ狼狽した。 エメの方も朱音の言っていることがわからない様子で、その切羽詰った状況に気付いて慌てて部屋を飛び出していった。 (な、なんで??)   混乱して椅子にへたり込んだ朱音は、テーブルの上で頭を抱え込んだ。   思い起こせば、アザエルに攫われたあの夜にどうして違和感もなく言葉が通じることに異変を感じなかったのだろう。 これはひょっとすると、ロランの言うように、自分は本当に頭が良くないのかもしれないと思い始めていた。 「*****!」   勢いよく開かれたドアから現れたのは、息を荒げたフェルデンと、そしてそのすぐ後ろになぜかロランの姿も。 「*****? *****・・・」   心配そうに駆け寄るフェルデンが懸命に何かを話しかけてきてくれているのはわかったのだが、今の朱音には彼の言葉はさっぱりわからない。 「わかんない、フェルデン、あなたの言葉がわかんないよ」   昨夜、部屋を訪ねてきてくれたフェルデンは、いつものごとく朱音の元いた世界について聞きたがり、車や飛行機などの話をしたばかりだった。 それに、家族を思い出してはホームシックに陥いる朱音の髪をいつも優しく撫でてくれたのだった。   そんな彼の言葉が理解できない。 急にこの世界に一人ぼっちで置き去りにされてしまったような不安と孤独を感じ、朱音はぼろぼろと涙を零し始めた。 「******」 安心させようと、フェルデンが朱音の髪を撫でる。
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