第1章 サンタシ編

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涙で滲む視界の中で、フェルデンのブーツが泥でひどく汚れていること、そしていつも部屋にやって来るときには必ず置いてきてくれる剣を今日は見につけたままにしていることに気付く。 おそらく、訓練を中断してここに駆けつけてくれたのだろう。 「*****、******」 入り口の辺りでその様子を見守っていたロランが何やらフェルデンに話をし始めた。   驚いた様子でフェルデンが立ち上がりロランを振り向く。 「****!?」 「***。********」   二人のやり取りは真剣そのものであった。 「フェルデン殿下、アカネが急に言葉を解さなくなったのは、おそらく、彼女にかけられていた魔術の効力が切れたからでしょう・・・」 「それは本当か!?」 「はい。実際、今アカネの身から魔術の気配は消え去っています」   そんなやり取りがあったことなど知りもしない朱音は、とにかくどうして自分がこんな状況に陥ってしまったのか、必死に考えていた。 「ロラン、君の術でなんとかできないのか?」   いつも冷静で十七という若さで騎士団の指揮官という任に就き、たった二年で数々の功績を挙げてきたこの青年が、この出所もわからないただの少女を前にすると、なぜか取り乱していることに、ロラン自身少々驚いていた。 「できないことはありません。しかし、僕の専門は結界術です。以前かけられていたような術をアカネに施すとなると、相当の時間を要するかと・・・」   戸惑いを隠せず、フェルデンは椅子の上で小さくなっている朱音を見やった。 「これ以上時間を無駄にする訳にはいかない。アカネは元の世界に戻りたがっている。そのチャンスを奪いたくはない……」 ロランも小さく頷いた。
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