第1章 サンタシ編

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「*****!」   フェルデンと朱音の乗る馬に気付いた見張りの兵士が何やら叫んで敬礼をとると、洞窟の周りで護衛をしていた他の兵士達も慌てて敬礼をとった。   フェルデンは自分が先に馬を降りると、朱音が降りるのを手伝う。 朱音は、すっかりこの青年の優しさに甘えきってしまっている自分を恥じた。   一人の兵士の案内で、二人は洞窟の中へと足を踏み入れた。 朱音は息を呑んだ。   一ヶ月前、アザエルに連れ去られたあの日に見た、あの金色の光の穴が、洞窟の奥にぽっかりと口を開いている。 穴のすぐ近くには、しばらく見なかったロランが呪文のようなものをぶつぶつと唱えながら、穴に向かい合っていた。   ロランの顔には疲労の色が濃く見られる。おそらく、ここ数日徹夜でこの作業にあたってくれていたのだろう。 いつかした朱音との約束の為に……。   朱音は胸が熱くなるのを感じた。   あれだけ憎まれ口を叩いていても、ロランは朱音を見捨てたりはしなかった。   そしてフェルデンも……。   今夜は雲が多く、二つの月は見えない。 「ロラン……」   朱音はロランのすぐ近くまで寄ると、小さな声で『ありがとう』と言った。 この言葉は、エメから教わった、数少ないこちらの世界の言葉だった。 ロランの霞がかったブラウンの瞳が驚きで見開かれている。 その頬にちゅっと朱音は軽く口づけた。 みるみる赤く染まる。 思い返せば、こんなに豊かな表情を見せたロランは今が初めてかもしれない。   金色の穴は既に安定していて、今なら悠々と朱音が入っていけるだろう。 (帰れるんだ……) 喜びで手が震えそうになりながらも、チクリとなぜか胸が痛んだ。
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