第1章 サンタシ編

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「フェルデン……」 振り返ると変わらない笑みの青年が立っていた。 でも、その顔はいつもよりもどこか淋しそうだ。   別れの時が迫っていた。 これを逃すともう元の世界には戻れない、なぜか朱音はそんな気がしていた。   でも、この一ヶ月という期間、自分を自分の妹のように気に掛け、励まし、優しく接してくれたこの青年の温かくて逞しい手と永久にさよならするには、あまりに辛すぎた。   はらりと頬を伝うものに気付き、朱音は手の甲でそれを拭う。 息もできない程の辛さ。 (そうか、わたし、いつの間にかこの人のこと好きになってたんだ……)   今更気付いてしまった自らの想いに、思わず苦笑してしまう。   ふと見上げると、美しい青年の顔がすぐ近くまで迫っていた。 「フェル……」   名を呼び終えぬうちに、朱音はぐいと強くフェルデンの腕の中に引き寄せられた。 「ラ・レイシアス……」 切なげに朱音の耳元で囁いた言葉の意味はわからない。 でも、朱音は懸命に背伸びをしてフェルデンの背中に腕をまわし、抱き返した。 一層強く抱き締められる形になった朱音だが、次の瞬間驚きで目を見開いた。   唇にあたる温かい感触。 フェルデンが自分の唇に口付けていたのだ。   ほんの数秒後、勢いよくフェルデンに突き飛ばされた朱音は、そのまま金色の穴の中に入ってしまった。 「や……!」  
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