第2章 ゴーディア編

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そうこうするうちに、いつの間にか山の麓まで無事に下りてくることができた。 迷わずにここまで来れたことに感動しながら、朱音はとうとう明かりの灯る交番に向かって勢いよく駆け出した。 (やっと家へ帰れる……!!) あと数メートルで交番に着く、というその瞬間、急に自分の足が自分のものではないかのようにぴたりと止まる。 すぐ近くの交番のガラス越しに警官が動く影が見えている。 (な、なんで!?) ここから叫べば中の警官が気付いて出てきてくれるかもしれない。 なのに、声さえ出せない。 嫌な汗が背中を流れた。 「申し訳ありません。少しの間術を掛けさせていただきました」 先程まで存在さえ感じながったのに、ふと背後で声がした。 振り向こうにもびくともしない朱音の身体は、すぐさま誰かの肩に担がれてしまう。 「!!」 担がれた拍子に視界の端に見覚えのある碧い髪が入ってきた。 (アザエル……! どうして……!?)   それと同時に、自分がこれからどうなるのか、簡単に想像できた。 この男にレイシアに再び連れ去られるのだ。 「このようなことになったのは全てわたしの失態です。あの時、どんな理由があろうとあなたから目を離すべきではなかった」   感情の篭らないアザエルの声は、まるで人形のように担がれている朱音の耳にやけに冷たく響いてきた。 (怖い……、この人一体何者なの? なんでわたしなの……?)   身体のどの部分も自由に動かすことはできないけれど、不思議なことに、朱音の瞳からはつうと一筋の雫が零れ落ち、地面に吸い込まれていった。 (フェルデン……)   恐怖の中で、優しい金髪のあの青年の顔が思い出される。  
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