第2章 ゴーディア編

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「貴様、ロランから離れろ! 一体何を……!!」   声を荒げたフェルデンは剣を抜こうとしてはっと手を止めた。 「誰を抱えている……!」   月明かりの下のフェルデンからは、洞窟の中の様子は暗くてよく見えないらしい。   さっきまであれほど会いたかったフェルデンがすぐ近くにいるというのに、朱音自身は声を出すこともできなかった。 それに、先程アザエルにかけられた術の影響か、朱音はまたこちらの世界の言葉を理解できることに気が付いた。 「フェルデン、そこをどけ。どかなければその腹切り裂いてでも通らせてもらうぞ」   冷たく恐ろしい男。 この男ならば本当にフェルデンを殺してしまいかねない。   まるでフェルデンが存在しないかのようにアザエルは洞窟の入り口の方へと向かって歩いていく。   フェルデンは刀身を抜いてアザエルに向けて構えた。   徐々に明るみに近づいてくる恐ろしく冷酷で美しい魔王の側近。   その肩に担がれているものが見えたとき、フェルデンは怒りで震えていた。 「アカネ!」   先程鏡の洞窟の最後の力を利用して、ロランの術で扉を開き、腕をもぎ取られるような思いで元の世界に送り返した筈の朱音が、ダラリと人形のように力なくこの男の肩に担がれている。 「貴様っ、アカネに何をした!!」   アザエルはさして興味もないかのようにその声を無視してその隣を通り過ぎようとする。   一瞬のことだった。   フェルデンの鋭い剣の切っ先がアザエルの首に宛がわれている。 先がほんの少し喰い込み、タラリとそこから血が僅かに滲んだ。 「ほう。ヴォルティーユの坊やはすっかり怯んでただ見ているだけだと思ったのだがな」   アザエルは無表情のまま静かに言った。 「少しでも動いてみろ、貴様の首を撥ね、その面をルシファーに送りつけてやる」   フェルデンの手に力が加わるのが朱音にも感じとれた。
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