第2章 ゴーディア編

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  正直、無理矢理連れて来られた朱音にとって、ゴーディアは何の愛着も感じらなかった。 こんな国なんて知ったこっちゃない、滅ぶなら滅んでしまえばいい、などという腹立たしささえ感じる。   そして、今ここには朱音を助け出してくれる人は誰一人いなかった。 誰も助けてくれないのなら、自分を救うことができるのはもう朱音自身だけである。   朱音は、やけに早鳴る鼓動を右の拳で押さえ、とんでもない行動に出た。   人は、生命の危機に立たされると、とっさに思い掛けない行動に出る。   部屋の窓を全開にしてどうにか城の外に降りられないものかと下を覗き込むと、窓の外には僅かな出っ張りが。   朱音はごくりと唾を飲み込むと、おそるおそる窓を跨ぎ、部屋の外へと出ると、思いの他強い風が吹き付けることに気付き、慌てて壁の窪みに縋り付く。   けれど、このままこの部屋に残れば、恐ろしい儀式の犠牲となることは免れないと思うと、朱音の挫けそうな心を何とか立て直すことができた。 (気付かれる前に王都まで逃げないと……! 人ごみに紛れれば、何とかなるかもしれない!)   僅かな希望を胸に、朱音は一歩、一歩と小さな窪みに足を掛け、確かめながら壁を降りる。   下を見ると足が竦み、心が萎えそうになる為、なるべく下を見ないようにしなければならない。   十メートル程壁をつたい降りれば、一息つける程の平たい場所がある。   それを目標に朱音は自らを励まし続けた。  あと三メートル、あと二メートル……と近付いていく目標地点。   裸足の足でペタンと着地すると、ひどく自分が汗をかいていることに気付いた。 (さあ、もう一頑張り……)   そう思って下を覗き込むと、朱音はまだまだ遠い地上に愕然とした。 (まだたったのこれだけしか降りてきてない……。どうしよう……、もう降りられないかもしれない……)   そう思ったと同時に、頭上の空いた窓から侍女達の騒ぐ声が聞こえてきた。   部屋のどこにもいない朱音に気が付いて、探し回っているのだろう。   再び早鳴りし始めた心臓。  
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