第2章 ゴーディア編

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  侍女達はそんな朱音の姿を知りつつも、無言のまま自らの仕事をテキパキと済ませていく。 しかし、侍女達の心の中も、内心は悲哀の気持ちでいっぱいだった。 ここに来てからすっかり痩せてしまった少女の身体は痛々しく、少女の心の痛みは、全部までとはいかないが、少しはわかる気もしていた。 国の機密事項の為、侍女達にはこの人間の少女が何者なのかは一切聞かされてはいなかったが、今日行なわれる復活祭りの儀式で、この少女にとってよくないことが行なわれることだけは何となく想像がついてもいた。 だからこそ、この高さの窓から逃げるなどという無謀なことをしでかしたのかもしれなかった。 「アカネ様……、何か私達にできることはありませんか?」   侍女の一人が堪らずに小声で囁いた。 朱音は、そんな侍女の心遣いに感謝しつつも、悲しそうな目で小さく首を横に振った。   儀式のときは刻一刻と迫っていた。 えらく長く、そして短い時間のようだった。     城の地下にある儀式用の大広間に連れられた朱音の心は、もうすっかり麻痺してしまっていた。 ただ、もう考えることに疲れ、そしてどうでもいいという諦めだけが心を支配していたのだ。   壇上には以前目にしたのと同じ、真っ黒な彫刻が施された棺が置かれ、その隣には石の寝台が設置されている。 棺と寝台は数人の灰のローブを羽織った者達に囲まれていて、その者達の表情は深くフードを被っているせいで見えない。 足元には炭のようなもので描かれた見たこともないような文字や絵で敷き詰められていた。 壇上より下は、ゴーディアの政治関係者と思われる人物十数人が、歴史的な儀式の一場面を目に収めようと、緊張した面持ちでじっと様子を見守っていた。 石の寝台の端には、怪しい光を放つ短剣が置かれている。  
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