第2章 ゴーディア編

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  朱音は寝台に寝そべる瞬間、ふと隣にある棺の中を覗き見た。 棺の中には、真っ黒な服に身を包む、朱音と同じ年頃の少年が静かに横たわっていた。 魔王ルシファーと同じ漆黒の髪は、二百年の年月の間に、恐ろしい程長く伸びていた。 それに、この少年はまだ少年の姿をしてはいるが、魔王ルシファーの生き写しのような妖しい容貌をしていた。 (これがクロウ……) 朱音は複雑な気持ちでそれを見つめると、朱音はゆっくりと寝台に仰向けに寝そべった。   寝そべる瞬間、ちらりと視界の端にあの碧い髪が入ってきた。 当然のことながら、あのアザエルも儀式に立ち合っているということだ。   あの男は、今のこの時をどれだけ心待ちにしていたことだろうか。 忠誠を誓う魔王ルシファーの最期の命を全うできるこの時を。 きっと、今冷たい微笑を浮かべているに違いない、そう思うと、朱音はひどく腹立たしく思った。    棺と寝台を囲む祭司達が何か不気味な呪文のようなものをぶつぶつと唱え始めた途端、風もないのにパタパタと男達のローブがはためき始める。   そして急に空気が冷たくなるのがわかった。   寝台の近くにいた祭司の一人が、寝台にあったハデスの短剣を手にとると、それを朱音の胸につき立てた。   その瞬間、凄まじい痛みが胸に走り、朱音は堪らずに悲鳴を上げた。 深く突き刺さった短剣は燃え滾るように熱く感じられた。 痛みの中で朱音の視界は暗転していった。 (フェルデン……)   朱音は最期に心の中で小さく呟いた。
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