468人が本棚に入れています
本棚に追加
空手や道場、師範、などの聞き慣れない言葉の意味を訊ねると、朱音は空手は武器を使わない武術のことで、道場は訓練場、師範は先生のことだと懇切丁寧に教えてくれたのだった。
ズキリと傷が痛み、フェルデンは懐かしい夢から目を覚ました。
どれだけ眠っていたのだろうか。
「アカネ……!」
フェルデンは痛みを堪えてベッドから這いずり出た。
上半身に巻かれた包帯からはまだ血が滲み出している。
力の入らない足、歪む床や天井から、自分が高い熱を持っていることに気付く。
「殿下! いけません! ベッドにお戻り下さい!」
慌てて駆け寄ってきたのは王家の専任の医師、フィルマンだった。
「どいてくれ、おれはアカネを助けに行かなければ……!」
何かに掴まっていないとすぐに崩折れそうになる身体を、なんとか壁に寄り掛かることで支えたフェルデンは、駆け寄ってきたフィルマンの手を払った。
「殿下、お気持ちはわかります。しかし、今の御身体では無理かと……。傷の状態はロランよりも悪かったのですぞ」
フェルデンははっとした顔になり、すぐにフィルマンの肩を強く揺さぶった。
「そうだ……! ロランは……ロランは無事なのか……?」
フィルマンはこくりと頷いた。
そしてフェルデンにベッドへ戻るように促し、その背を支える。
「ご安心くだされ。ロランは無事です。ロランの傷は大きかったものの、フェルデン殿下に比べると、傷自体は浅いものでした。得意の結界で咄嗟に防御したものと思われます。」
ほっと安堵の溜め息をついたのも束の間、フェルデンはフィルマンの支える手からやはり離れようとした。
「アカネが、魔王ルシファーの右腕、アザエルに捕まったのだ。直ぐに追わなければ……!」
壁に背を委ねながら、懸命に部屋の扉に向かうフェルデンを、フィルマンは何とかして止めなければならなかった。
フェルデンの失血量は致死に到ってもおかしくは無い程のものだったからだ。
そして、そんな身体で歩けること事態が既に奇跡としか言いようがない。
最初のコメントを投稿しよう!