第2章 ゴーディア編

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  昼間の王の顔とは違い、ヴィクトルはフェルデンの年の離れた兄の顔に戻っている。 「フェル、一体どの位眠り続けていたのかを知っているか? お前は三日間も眠り続けていた……。一体あの夜何が起こったのだ?」   フェルデンは三日という言葉に愕然とした。   あのアザエルならば三日あれば既にこの大陸を離れているかもしれない。 あれから三日経っているとすれば、あの男に追いつくことはかなりの困難を極めるだろう。 「おれはそんなに眠っていたのか……」 「正確には、瀕死の重傷だったと言えるだろう」   ヴィクトルは、フェルデンの背に腕を回し、ベッドに戻る手伝いをした。 今度はそれに素直に従った。 「ロランに大まかなことは聞いている。時空の扉から、確かにアカネをアースへ送り返したこと。しかししばらくの後、魔王ルシファーの側近であるアザエルが突然背後から現れ、容赦なく攻撃を仕掛けてきたこと、閉じかかった時空の扉を再び開き、自ら入って行ってしまったこと。少し後に気を失ったアカネを抱えてアザエルが時空の扉から帰還したこと」   小さく呻きながらフェルデンはベッドにどさりと腰掛けると、こくりと悔しそうに頷く。 「おれはアカネを手放したことに動揺し、儀式の片付けをロランに任せたままに早々に退散していた……。おれが馬鹿だった。公務に私情を挟むなどと……」   くっと唸ってからフェルデンは包帯の巻かれた拳をベッドに振り下ろした。   ヴィクトルは項垂れる弟の肩にそっと手を置いた。 「馬を走らせていたおれだったが、途中で何か嫌な予感がして慌てて引き返して来た。すると鏡の洞窟の前で部下が血を流し倒れていて、まさかと思い洞窟の中を覗いたときには、もうあの男、アザエルがアカネを担いで出てくるところだった……」   フェルデンの落ち込み様は異常だった。 嘗てこんなにも後悔に苛まれる弟の姿を見たことはあっただろうか。 そう、幼きジゼル姫を失ったあの時でさえ、恨みや怒りを露にしたものの、ここまで落胆することはなかった筈だ。
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