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ディートハルトとは、フェルデンの剣の師であり、フェルデンが尊敬する数少ない人物の一人であった。
二年前まで、騎士団の指揮官を務めていた屈強な戦士である彼は、すでに六十を迎えたというのに、未だ部下からの信頼も厚く、ヴィクトルのよき相談相手でもあった。
そんな彼が急に指揮官の地位をフェルデンに譲ることを宣告してから、時は既に二年経ち、それからはヴィクトルによって国内の治安維持を目的とする警備隊長官という任を与えられている。
「ディートハルトが・・・」
傷を負った自分を助けてくれたのが、嘗ての師である男だったことと、その男を的確な判断で送るヴィクトル王に、フェルデンはひどく感銘を受けた。
「そこでだ。わたしはすぐさまゴーディアに向けて書状を書いた。内容は、我国土内で起きた不祥事を会談でもって御伺いしたい、というようなものだ。その為にこちらから遣いの者を向わせるとも」
フェルデンは兄王の眼を見つめ、意図を読み解こうと努力した。
「まさか、その遣いというのは……」
ヴィクトルはこくりと大きく頷いた。
「そう、それをおまえに頼みたいのだ。おそらく、これだけの問題を起こしておきながら、それを拒否するなどゴーディアの元老院の年寄共もさすがにせぬであろう。危険な任だが、行ってくれるか?」
「……わかってはいると思うが、会談はただの名目であって、これが主ではない。お前のその目で、国王の生死、国の現状を探ってきて欲しいのだ……」
その後に続く言葉はなかったが、恐らく暗黙の了解で、そのときを狙ってアカネを奪還してくることを許す、ということであろう。
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