第2章 ゴーディア編

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【11話 覚醒】 喉が焼けるように痛む。 「……う……」   身体中がとにかくなんでもいいから水分を、と欲している。   漏れた声はひどく掠れていた。 堪らずに両の手で喉を引っ掻くように掴む。   しかしその手さえもまるで他人のものであるかのように、重く、気だるい。   とても奇妙な感覚だった。 自分の身体なのに呼吸さえもうまくできず、自然と息が荒くなる。   ひどい疲労感と苦しみの中で、周囲がざわざわと騒ぎ始めるのがわかった。 「クロウ殿下がご復活なされた……! 儀式は成功した……!!」 「直ぐに医師を呼んでまいれ!」   盛大な歓声とともに、人々が慌しく周囲を歩き回る音、そしてこちらへ駆け寄る音。   朱音にはその全てがもうどうでもよく感じられた。 ただ、今は喉が渇いた。 これまでの人生で これ程までに渇きを覚えたことはない。 強い渇きは、時として痛みにも変わる。   苦しみに悶えていると、ふと誰かが朱音の背を優しく腕にもたせ掛け、その力の入らない身体を起こすと、唇に何かをそっと流し込み始めた。 こくりと一口飲み込むと、それが水であることに気付く。 「おかえりなさいませ」   そっと耳の傍で囁く声が聞こえたような気がした。   入りきらなかった水はタラリと唇の端から零れ落ち、ポタポタとその雫が滴り落ちていく。 朱音は欲するがままに、その水をこくこくと咽返りながらも飲み干していった。 「……もう……いい……」   なんとかそう言い終えると、朱音はぐったりした身体でうっすらと目を開けた。 まるで初めて目を開けた赤ん坊のように、視界がぼやけて見えにくかったが、じっと目を薄めてしばらく見つめていると、少しずつ視野がはっきりと見え始めた。  
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