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ベッドに横たわる黒髪の少年を見るなり、顔を紅潮させて、ルイはキラキラと輝く灰色の目でアザエルを見返した。
「僕などがクロウ殿下のお傍にお仕えしてよろしいのですか?」
霞みがかった灰の瞳は喜びで震えていた。
二百年の間行方不明となっていたルシファー王の一人息子が、先日の復活の儀式によって突如としてこの国に降臨したという話は、城で働く者達の噂で既に耳にしていたルイだったが、まさかその方の世話係に任じられるなどと思いもしていなかったのだ。
それに、儀式に立ち会った者達は皆口々に、クロウ殿下は天から授かった世にも珍しい美貌を兼ね備えた王、ルシファーの姿を生き写したかのようだと感嘆を洩らしていた。
ルイ自身、この黒髪の少年王子の姿を前にして、自分がどうやら過呼吸気味だということに気付いた。
だが、美しさの中に奇妙な違和感も感じる。
確かにこの方はクロウ殿下だというのに、この黒髪の少年王子の身体からは、一切の禍々しさや溢れんばかりの強大な魔力を感じられない。
そのことに気付き、ルイは首を傾げながら眠り続ける王子の顔をじっと見つめた。
「何か言いたそうだな」
アザエルはそんなルイの小さな仕草さえも見逃さなかった。
「いえ、ただ……」
口を開きかけてそのまま言葉を飲み込んだルイにアザエルは、
「なんだ」
と、問い詰めるような声で問い質した。
「ただ、クロウ殿下の魔力が感じられないと思いまして……」
そう言い終った瞬間、ルイは部屋の空気が一気に凍りついたのを感じ、しまったと思って自らの口を塞いだ。
アザエルの冷たく凍りつくような視線。数秒間の沈黙は数時間にも及ぶ長い時間のように思われた。
「このことはまだ内密にしておけ」
その目は、もし誰かに話してでもみろ、命はないと思え、と言われているような気にもなる脅迫の色を持った目であった。
控えめな少年は、思わずゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
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