第2章 ゴーディア編

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「何でも無い。よく知っている友達によく似てたから……」   あの男が憎くても、この少年には何の罪もない。 朱音は、見ればサンタシを思い出して辛くなる従者の少年の顔を、黒く美しい目を少し悲しい色に染めながら、じっと見返した。 ルイは、困ったように微笑むと、この世のものとは思えない美貌の主にほんの少し頬を赤く染めた。 「そういえば、あいつは?」   朱音は急に不機嫌になった声でルイに尋ねた。   ルイは首は一瞬首を傾げるが、 「ああ、アザエル閣下ですね? 閣下は、本来の仕事である国政の任に戻られました。国王陛下不在の今、アザエル閣下がゴーディアの最高権力者です。今や閣下なしでは国は動きえません」   ルイは、まるで憧れる先輩について話す中学生のように、熱の篭った口調で朱音に言った。 憎しみですっかり忘れていたけれど、アザエルはルシファーの右手と呼ばれる程の存在だった。 ゴーディアで“閣下”と呼ばれる地位にいたところで、何ら不思議はない。 何にせよ、あの見ただけで吐き気を催す憎い顔を見ないで済むことは、朱音にとっては唯一の救いであった。 「そう」  ほっとして思わず顔が綻ぶ主の顔を、ルイは不思議そうに見つめた。 「そうだ。クロウ殿下、髪を整えるようにとアザエル閣下から申し付けられています。午後から美容師を招いておりますので、そのつもりでいらっしゃってくださいね」  にこりと微笑むルイは、朱音の髪をちらりと見やった。 思い出したように、朱音は黒く艶やかな髪を摘んでみた。 昨日のことを思い出してはっとする。 癇癪を起こして警護にあたっていた兵士の剣を奪って、強引に切ったクロウの長い髪は、すっかり不揃いですっかり短くなってしまっていた。 クロウの身体だというのに、自分勝手なことをしてしまったと少しばかり反省はしてみるが、やっぱり軽くなった髪の方が朱音にとっては心地良かった。
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