第2章 ゴーディア編

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「敵地に赴くということは、火の中に飛び込むということ。必ず生きて帰られよ」   デーィトハルトは、フェルデンに大きく頷き返した。 「わかっている。おれが留守にするしば らくの間、騎士団を頼めるだろうか?」   ぶっと噴出すと、顔面に刻まれた古い傷跡のケロイド部分がぴんと突っ張り、男の顔の皮が不自然に引き攣る。 これがフェルデンが子どもの頃から何度も見ていた、師の懐かしい笑い顔だった。 「本当に図々しいお方ですな。少しはわたしの年を労わったらどうです。その図々しさときたら、子どもの頃と少しも変わっておらん」   白髪の混じった顎鬚を左手で一撫ですると、唇の端を少し上げて言った。 「仕方ない。貴方を助けたときに既に乗り掛かった船だ、もう一つや二つ助けたとてそうは変わりますまい」   フェルデンはぐっと師の片手を掴むと、強く両手で握り締め、信頼のおける屈強なその男に、笑みを含んだ強い眼差しを向けた。 「ディートハルト、貴方ならそう言ってくれるとわかっていた。ありがとう」   ごほんと罰が悪そうに咳払いをすると、ディートハルトは但し条件がある、と一言言った。   フェルデンはまさか嘗ての師に騎士団の指揮官の代理を頼むのに条件を出されるなど考えてもいなかったものだったから、はたと握り締めるその手を止めた。 「旅は道連れと言いますぞ。騎士団の中から、信頼のおける部下を一人、供として連れてお行きなされ」   ディートハルトの意図が何なのかはフェルデンには直ぐに理解できそうにはなかったが、この経験豊富な男のアドバイスで役に立たなかったことはない。 「ユリ、ついて来てくれるか?」   フェルデンはすぐ脇で草の葉についている虫を観察している小柄な青年騎士に訊ねた。   二つ年下のユリウスは、農民の出身で、騎士としては特殊だったが、ディートハルトの兄弟弟子として共に過ごしてきた友と呼べる特別な存在だった。  
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