第2章 ゴーディア編

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  そして何より、小柄でありながらもその剣の腕は確かで、フェルデンは誰より彼を信頼していた。 「へ?」   きょとんとモスグリーンの瞳を長身の二人の男達に向けると、葉についていた虫がパタパタと羽を鳴らしながら飛び立っていった。 「ユリウスよ、幼き頃から共にあるお前なら、フェルデン殿下の最高の部下として、友として、きっとよ良き手助けができるだろう」   小柄なユリウスはゆっくりと立ち上がると、白い歯を出してにっかりと笑った。 「あったり前じゃないですか! おれ以外の誰にフェルデン殿下の相棒が務まるというんです。大船に乗ったつもりでいてください」   胸を張って言い切ったユリウスに、師であるディートハルトは、 「このお調子者めが!」 と頭を小突いた。 「って!」 自分を供として選んだフェルデンは、極秘である今回の遣いとしての任の重要性を丁寧にユリウスに話して聞かせ、そして、あのディートハルトでさえ知りえない裏の事実も明かしてくれた。 異世界から鏡の洞窟を通じて、魔王ルシファーが呼び寄せた人間の少女アカネのこと。 そしてそのアカネを愛してしまったこと。 さらに、今回の任は“会談”という名目の元、敵国の情勢を見定めるという裏の任が含まれていると同時に、ルシファーの手に奪われた少女を奪い返す唯一のチャンスであるということ。   ユリウス自身まだ信じられない思いでいっぱいだった。 あの晩あの森で保護した黒髪の少女は、魔王ルシファーの右腕、アザエルによって儀式の為に連れ去られたサンタシ国の少女だとばかり思い込んでいたのだ。 それが、まさか異世界からやって来た少女だったとは。 そして、このフェルデンが一人の少女を愛する日が来るなど想像すらつかなかった。 ユリウスにはない長身と、男らしく甘い顔立ちは無意識に通りすがる女達を虜にしていたにも関わらず、本人は色恋には全く興味を示さないで、剣ばかりに熱心に入れ込んでいたというのに。  
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