第2章 ゴーディア編

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ヴィクトル王お抱えの術師、ロランが鏡の森で重傷を負ったという噂は聞いていた。 しかしまさか、ここにいるフェルデンさえも同じとき同じ場所で瀕死の重傷を負っていたという事実は本人の口から聞くまでは知り得なかったことである。 おそらく、ヴェクトル王とディートハルトの計らいで、入念に隠蔽されたのだろう。 山道を二頭の馬が駆ける抜ける。   フェルデンは痛む肩にほんの少し顔を顰めた。 馬が山道を駆ける度にその振動が治り切らない傷の存在を知らしめた。 しかしそれでも、ここで止まる訳にはいかなかった。 今こうしている間にも、アカネはひどい扱いを受けているかもしれない。 恐ろしい儀式に立ち合わされているかもしれない、そう思うと、痛みで立ち止まっていることなどできなかったのだ。   すぐ後ろを駆けるユリウスは、そんなフェルデンの心中を察していた。 旅の途中、何度もフェルデンの傷の包帯を巻き直す手伝いをしたが、傷口は未だ赤黒く腫れ上がり、ひどく熱を持っているようであった。   そんな状態でもこの過酷な旅を続けられるフェルデンの心の支えは、今や愛する少女の可憐で無垢な笑顔を守りたいという強い思いが大部分を占めていた。 「殿下、殿下ったら!」    ユリウスは先程から二人が向かう先と反対の方向へと歩む馬車や荷台を引く人々と頻繁に擦れ違うことに気付いていた。 勿論そのことにフェルデン自身も気付いていない訳ではなかった。 「殿下! なんだか様子がおかしくないですか?」   フェルデンは毛頭馬の足を止める気もないようで、前方から目を離さないまま言った。 「何が!」   苛立ちを隠せないその言葉は、半ば怒鳴っていた。 「だって、こんな山道だっていうのに、 やけに王都からの人通りが多いし、さっきの家族見ました? 頭に祭りの飾りをつけていましたよ!」  
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