第2章 ゴーディア編

44/92
前へ
/542ページ
次へ
  怒って余計にスピードを上げるフェルデンに向けて、ユリウスはわざと大声を出した。 「それが!」 ますます不機嫌な声のフェルデンは、またもや怒鳴り声を上げた。 「それがって、つまりですね、王都マルサスで何か祝い事があったってことです!」   堪らずにユリウスは手綱を引き寄せて、その場で馬の足を止めた。 「そんなこと、お前に言われなくてもわかっている!」 数メートル走ったところで、ユリウスがついて来ないと気付いたフェルデンが、仕方なく馬を止めると、忌諱(きい)に触れた顔でじっとフードの下からブラウンの瞳を光らせた。 「ユリ!」   ユリウスはぱっと馬から軽やかに飛び降りると、馬の手綱を引いたままゆっくりと馬上のフェルデンに近付いて行った。 「殿下が苛立つ気持ちもわかります。でも、貴方の部下として友として、おれにも冷静に物事を見定める義務がある。それは、誰でもない貴方を助ける為です」   いつもは朗らかな雰囲気を身に纏っている小柄な青年は、平素と違って高姿勢な態度だった。 「では、一体どうするんだ?」  フェルデンがフードを外してもう一度ユリウスの目を見た。青年は道の先を指差して言った。 「あの者に訊ねてみます」   道の先からやってくるのは、荷台を引いた壮年の男。 荷台には砂埃よけの大きな茶味がかった布が被されている。 「失礼! おれたち、王都へ向かっているんだけど、最近王都で何かあったんですか?」   ユリウスがいつもの朗らかな笑みを浮かべて男に歩み寄っていくと、壮年の男も気の良さそうな顔で、おう、と短く返事をした。 「ああ、あんたら、他国の人かい? 昨日、復活祭があったんだよ」   馬に跨ったまま、フェルデンの眉がぴくりと反応した。 「復活祭?」   ユリウスは聞き慣れない言葉を反復した。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加