第2章 ゴーディア編

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「ええ。ですがまさか王家の血を引くフェルデン・フォン・ヴォルティーユ殿下が御自らおいでになるとは思いもしなかっものですから、少々驚いていますが」   ユリウスは、何を白々しい! と心の中で吐き捨てると、いざという時にフェルデンの助太刀ができるよう、じっと隠し持っている剣に手を添えて静かに時を過ごした。 「ヴィクトル国王陛下も、今回の件では決して穏やかではありません。十年前にやっと成立した停戦条約を無碍にするようなゴーディアの行動の真意を直接ルシファーー王に問い質したい」   アザエルはしばしの沈黙の後、突飛なことを淡々と口にし始めた。 「意外だな。サンタシの王ヴィクトルは賢王と聞いていたが、まさか本当に気付いていないとは」   フェルデンはアザエルの感情のない目をじっと見つめた。 「どういうことです?」   落ち着いたフェルデンの声は先程よりも少し熱が入り始めている。 「ルシファー国王陛下はお亡くなりになられた」 「なに!?」 「なんだって!?」   俯いていたユリウスでさえ、勢いよく顔を上げ、大声を張り上げていた。 「国王が不在の今、国内の混乱を避ける為、わたしと元老院者達が意図して公表をしなかったのです。貴殿も王族ならばお解かりになる筈」   兄ヴィクトルが言っていた推測は正しかった。   フェルデンは衝撃の事実に自失した。 「よって、今回の事情は全てわたし個人の起こしたこと。国家は何も関わってはいないということだ」   やられた、とフェルデンは氷のような男を臍を噛む想いで見つめた。   こちら側は、ゴーディアが起こした条約を蔑ろにするような行為を引き合いに出し、有利に会談を進める手筈だったというのに、この狡猾な男は国王が死去したという事実を提示し、自分一人が罪を背負うということで、ゴーディアの立場をサンタシと同等のものへと見事引き戻して見せたのである。
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