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そうなれば、アザエルの思う壺である。
「えらく興奮されているようだが、大丈夫か?」
わざとフェルデンを挑発するような冷淡な言葉は、アザエルの戦略の一つだとユリウスは悟った。
「もう貴殿の耳には入っていることと思うが、二百年前に行なわれた儀式によって長き眠りにつかれていたルシファー陛下のお子、クロウ殿下が、復活の儀式で覚醒されたのです。今日はそのクロウ殿下の即位式が執り行なわれる」
嫌な予感は的中した。
既に儀式は済んでしまっていた。
贄として攫われた朱音がどうなったかなど、想像もしたくない。
フェルデンのアザエルの詰襟を掴む手が緩んだ。
「フェルデン殿下、まだアカネ様が儀式の贄になったとは決まっていません。きっとまだこの城のどこかにいます」
ユリウスは、そっとフェルデンの耳元でそう囁いた。
まだ、友にここで希望を失って欲しくはなかったのだ。
良くない考えは捨て切れなかったが、フェルデンは僅かな希望を胸に、自らのみ掻き乱れた心を落ち着かせるよう律して、大きく息を吐き出した。
「あなた方はゴーディアの大切な客人。ぜひ今夜の即位パーティーにご参加ください。そして叶うならば、新たな若い国王に祝辞を。きっとお喜びになるでしょう」
ユリウスは、小さく目でフェルデンに合図をすると、頷いた。
これは城内を朱音を探して歩くには又とないチャンスかもしれない。
「……わかった。お受けしよう」
アザエルは冷笑を浮かべると、掴まれていた詰襟を何事も無かったかのように静かに整え言った。
「では、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ殿下。それに騎士殿。その姿ではパーティーに出席できまい。礼服を用意させましょう。夕刻までまだ時間があります。侍女に部屋を用意させていますので、暫しお寛ぎを」
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