第2章 ゴーディア編

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【14話 再会】  華美な装飾に、真っ黒に染め上げられた絹を存分に使用した煌びやかな衣は、引き摺る程に長い。   硬い王座にもう二刻以上も座ることを強要されているまだ少年の域を出ない年若い王は、まるで拷問を受けているかのように、お尻にかかる負荷にひたすら耐え続けていた。 「クロウ国王陛下、本日はご即位、おめでとうございます」   腹立たしいことだが、朱音が腰掛ける王座のすぐ隣には、無表情なアザエルが立ち、朱音がもぞもぞと腰を動かす度にじっとしていなさいとばかりに睨みをきかせていた。   元老院やゴーディア国のお偉い方達の祝辞が一通り済むと、やっとのこと、朱音は硬い王座から開放してもらった。 「ああ、疲れた……。喉カラカラだよ」   うんざりしたように言うと、ルイがグラスに水を注いで手渡してくれた。   式の行なわれていた部屋を退室した後、今はパーティー会場として使われている大広間へと向かっているところである。   朱音の手をとり、エスコートするように歩くアザエルの横顔をそっと盗み見る。 思えば、今日はこの男と一度も言葉を交わしていない。 しかし今の朱音にとっては、そんなことはどうでもいいことだった。 サンタシからの使者、フェルデンに会えるかもしれない、その喜びで胸がいっぱいだった。   あの鍛えられたすらりとした身躯、そして短く美しい金の髪。 少年っぽい色を残した、男らしく優しいブラウンの瞳。 もう一度あの人に会えるかもしれないと思うだけで、無意識に足が震える。 (フェルデン……!)   従者の手で開けられた大広間の豪華な扉の隙間から、華やかな音楽の音が響き、美しく着飾った女達や身分の高そうな男達が楽しそうに立食したり、会話をする様子が目に飛び込んできた。
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