第2章 ゴーディア編

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  扉が開ききった途端、大広間中の者達が歓声を上げて朱音の方に向き直った。   女達は頬を赤く染め、男達も感嘆の声を洩らした。 そして、口々にこう口走った。 「なんとお美しい!」 「まるでルシファー国王陛下を生き写したかのようだ!」 と。 未だおおっぴらには、魔王ルシファーが死去した事実は公表されておらず、皆、ルシファー国王は健在だと信じて疑っていない。 しかし中には、覚醒したばかりの年若いクロウの突然の即位と、その息子の即位式にさえ姿を現さなかったルシファー国王のことを考え、ルシファー国王の身に何か起きたのではないか、と疑念を抱く者が出てきているのも現実だった。   朱音は自分が人々の視線の的となっていることに気付き、不快感で顔を歪めた。 見世物にでもなったような嫌な気分を抱きながら、朱音はそれでもパーティー会場の人混みの中に長身の男の姿を探した。フェルデン・フォン・ヴォルティーユ、その人の姿を。 「しかし、まさか本当に魔王が死去していたとはな……」   フェルデンは旅装束から、賓客用に用意された美しい礼服に着替えていた。 白いシャツの襟を立てると、慣れた手つきで蝶えを結ぶ。 艶やかな紫色の細いタイは、フェルデンを紳士へと仕立て上げてくれた。 「国王の側近、あいつ、やはりただ者ではありませんね。こうなることを予想して、まるでおれ達をわざとここへ招き、利用しているような口振り」   ユリウスはぶるりと身震いした。 あの冷徹な顔を思い出しただけで寒気がする。 「あの男は、感情の無い蛇のような男だ。一瞬の気の緩みが命取りになる」   長身のフェルデンは、小柄な部下に向き直った。  
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