第2章 ゴーディア編

58/92
前へ
/542ページ
次へ
  ユリウスもかっちりとした礼服で身だしなみを整え、謹厳な面持ちで上官の目をじっと見つめた。   魔王ルシファーの息子が復活の儀式によって覚醒したこと、そしてその息子がゴーディアの国王として即位したこと。 その全てがフェルデンやユリウスにとって衝撃的で、停戦中のサンタシ側からすれば、いつ停戦状態が解かれるかもわからない今、そのことはヴィクトル王に事細かに報告すべき重要事項ばかりである。   即位式は厳かに内輪の者だけで行われていた。 まだ式は終わってはいなかったが、続々と魔城に到着する高貴な馬車や、そこから降りる着飾った男や女の姿を見るに、パーティーは既に開始されているらしい。   日は傾き、空にはうっすらと二つの月が浮かび上がっている。 「おれたちもそろそろ会場へ行きましょうか」   ユリウスがテーブル脇においてある水の入ったグラスをぐいと煽った。 「いいか、パーティーのときだけは城内がどうしても手薄になる。新国王に祝辞を述べた後、うまく会場を抜け出し、アカネを探すんだ」 「了解」    賑やかなパーティー会場、人ごみの中には朱音が夢に描いていた金の髪は見つけられないでいた。   いつもは従者服であるルイも、今日は礼服を身につけ、こんな時でさえぴたりと朱音の背後に張り付いていた。 灰色の髪の従者は、黒髪の主がこの喧騒の中で一体何を探しているのかを知っていた。 「国王陛下、何かお探しでしょうか?」   アザエルが落ち着かない様子で、辺りを見回す朱音の様子に、感情のない声で言った。 碧い眼が全てを見透かしているかのように、朱音を見つめる。 「べ、別に……!」   この冷たい眼に何度陥れられてきたことか。 朱音は無意識にその眼から視線を逸らす。 ふっと口元を歪めると、氷の男はそっと朱音の耳元で囁いた。
/542ページ

最初のコメントを投稿しよう!

468人が本棚に入れています
本棚に追加