11 みこ

6/6
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
やっちゃんがすごくすきだった。 ちがう、もっともっとすきだったんだ。 ううん、もっと、もっと、もーっと。 そんなことばかりがよくわかって、あたしの涙は 止まらなかった。 「どこいくんだよう、そんな体で」 やっちゃんが言った。 「菜子をたすけるの」 やりたいことは山ほどあった。 けれどできないことも、それとおなじくらい山ほ どある。 少しの可能性も無視して、そう決めてしまえるほ ど、今という時があたしの順番でいう後ろだっ た。 もうおわる。 最後、やっちゃんに逢えてよかったと思う。 ゴールで待ってて抱き合うみたい。 そんな名誉なことじゃないけれど、すべてがもう がんばらなくていいといっている気がした。 やっちゃんの顔が遠くなる。 きっとあたしのことなんて忘れてしまうやっちゃ んの目が、今ならまだ前髪を通り越してあたしを 見ている。 愛の入った目で祈るように見ている。 どうか、 やっちゃんがもし、誰かといっしょになるとき、 おなじ愛の気持ちでいられますように。 こんなできすぎてて綺麗すぎる思い、今じゃな かったら、きっと丸めて捨てたと思う。 本当はいやな奴にもなれた。 この短い時間で、やっちゃんをうっかり刺し殺し て道ずれにすることも、ナイフさえあればでき た。 だけどそうしないのは、今ナイフがないからと、 あたしの体が終わろうと準備をしてるからなのだ と思う。 あたしの体があたしをやめていく。 もう悪みたいな自己中に振り回されなくていん だ。 あたしの黒い点が、 ひなたになって、 かわりに菜子のじゅくじゅくほっぺを、照らせば いいな。 雲の上で天使がつぶやいている。 やっと真相。 おつかれ。 自己中が悪者なんてわらっちゃう。 本当はみんな自己中に守られながら生きてるの に。 結局、心なんて百年、千年、誰ひとり守れやしな いのよ。 黒は黒。 白をまぜて夢見るなんて、きったないからやめて よね。 ああ、コーヒーが冷めちゃった。 冷たいブラックなんて最悪。 熱いミルクをたあっぷりそそいでカフェオレにし よっと。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!