エピローグ

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彼女たちがいなくなってから俺は幾日も、ぼうっ として過ごした。 本当に言葉の通りぼうっと。 目が嫌がって前のことを見ようとしてくれない感 じだ。 そのあたりこそ夢の中を泳いでいるようだった。 だからある日見たそれが夢だったのか、その他の 例えば幻とか、亡霊とかそういう類いのものだっ たのかまではわからない。 とにかく俺は、こんなものを見たのだ。 彼女たちが満点の星の下、手を繋いで歩いてい る。 なぜか俺の部屋で流れている音楽にあわせて、陽 気に歌を口ずさんでいる。 星空はどんどん大きくなって、次第に空間全体を 宇宙みたいに真っ黒にしていった。 そこにちらばった星を、彼女たちはひとつひとつ 拾いながらポケットに入れて、 時々、ひとつふたつつまんで口に入れ頬を光らせ たり、カリカリと爽快な音をたて咀嚼している。 彼女たちはとても楽しそうにしていたけれど、そ の顔はのっぺりとしていて、パーツがなかった。 はっと気づいたとき、彼女たちはもう残像になっ ていて、けれどそれさえも、次のまばたきによっ て消えてしまった。 そのとき視界の端っこで、最近名前の変わった猫 のミナコも、おなじところを見つめていた。 澄んだ目で。 ちょうど雨上がりの花びらにたまった水滴のよう な透明な目だった。 彼女たちのえくぼを彼女たちのいない世界で求め るのは、本当に淋しい。 彼女の好きだった梅のど飴が口の中で跡形もなく なる度、気が狂いそうになる。
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