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スプーンを手に取る。
俺はこれを、境界線の丁度真ん中から食べることに決めている。
そして空いたところに御飯を寄せ、隙間を埋める。また真ん中を掬う、埋める、掬う、埋める、掬う……。
人参やジャガイモは皮が残っていて、土臭い気もする。
肉は火を通し過ぎたのか、硬くなっていた。
ふと妻の方へ視線を移した。
何故か、妻は泣いていた。
「皮が付いてた方が自然のままって感じで良いよ。それにお肉だって、ちゃんと火を通した方が安全だよ。うん、美味しい、このカレーライス」
妻のこんな口調を聞いたのは、何十年振りだろうか。
妻が泣きながら口にした台詞……。
どこかで聞いたことがある。
どこだ?
いつ聞いたんだ?
何なんだ……。
何か思い出せそうな気がする。
身体の奥深くにぽっかりと空洞が出来たような感覚。
どれほど深くを探せども、何も見つからない。
妻の顔を、ただ眺めることしか出来なかった。
――突然、喉が詰まる。
上手く飲み込めなかったからではなく、上手く言葉が出なかったからだ。
そして俺の頭の中には、ある日の光景が鮮明に蘇った。
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