老夫婦と食堂

2/21
前へ
/21ページ
次へ
小高い山を登る。もうどれほど歩いたのかも定かではない。 六〇を過ぎた身体にこれは、ナイフを突きつけられるのと大差ないだろう。 すでに切りつけられていると言ってもいい。 「おい、まだなのか。一体どこに連れて行くつもりか知らんが」 前を歩く妻に訊ねる。 つい偉そうな口調になってしまうのは、結婚当初から四十年間変わらない。 「まあ、そうおっしゃらずに」 妻の口調は反対に、日に日に柔らかくなっていくようだった。 お互いにこうも違えば、もうどうでも良いのだろう。 だからこの歳まで二人でやって来られた。 妻に聞いた訳ではないが、そうだと思っている。 とにかく今の俺には、妻に従い、着いて行くことしか出来ない。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加