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小高い山を登る。もうどれほど歩いたのかも定かではない。
六〇を過ぎた身体にこれは、ナイフを突きつけられるのと大差ないだろう。
すでに切りつけられていると言ってもいい。
「おい、まだなのか。一体どこに連れて行くつもりか知らんが」
前を歩く妻に訊ねる。
つい偉そうな口調になってしまうのは、結婚当初から四十年間変わらない。
「まあ、そうおっしゃらずに」
妻の口調は反対に、日に日に柔らかくなっていくようだった。
お互いにこうも違えば、もうどうでも良いのだろう。
だからこの歳まで二人でやって来られた。
妻に聞いた訳ではないが、そうだと思っている。
とにかく今の俺には、妻に従い、着いて行くことしか出来ない。
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