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山と言っても、それほど険しい訳ではなく、ちらほらと家屋も見受けられる。
辺りはもう、山を見世物にする重役を終えた紅葉で、埋め尽くされている。
だらだらと滲み出る汗に、木枯らしが心地よい。
どことなく浮かれたように笑顔を見せ、せっせと歩く妻。
それとは対照的に、いつの間にか私は膝に手を着け、下ばかりを見て歩いている。
妻などに遅れを取るまいと、息も絶え絶えに、なんとか着いていた。
「ほら、見えましたよ!」
少し上を歩く妻の方を向くと、その先の景色にも目がいく。
下を向いていて分からなかったが、どうやら山頂らしき所まで来ていたようだ。
「はあ、やっとか」
「早く行きましょうよ」
「ああ、そう急かすな」
白髪混じりの頭は変わらないが、嬉しそうに微笑む妻の顔は、若い頃のそれと寸分たがわぬように見えた。
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