10人が本棚に入れています
本棚に追加
案内されたのは、陽が柔らかく差し込む窓際の席。
二人用らしい小さな丸い机には、真っ白なテーブルクロスが掛けられている。
机上には、陽の光を多方向に反射しているガラスの瓶が置かれ、クロスと同じく純白の、一輪の花が挿されていた。
ウエイターといい、内装といい、異質なほどに外観からはかけ離れている。
「綺麗な所でしょう?」
「ああ、まあな。お前はここに来たことがあるのか?」
そう訊ねたが、妻は何も言わず、窓の外をぼんやりと眺めだした。
やれやれ……。
「今日は記念日ということでしたので、特別にサービスさせていただきます。では、しばらくお待ちくださいませ」
ウエイターがそう言い、奥へと去っていった。
記念日とは一体何のことなのだろうか。
彼の言いようから察するに、俺たちの記念日なのだろう。
俺は何か、大切なことを忘れている気がする。
最初のコメントを投稿しよう!