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「聖次さん、挨拶は…」
ハッとしたように僕から目を反らす。そして、
「おはようございます、お祖父さまお母さま」
母は「しかたがないわね」というように笑顔で返し、祖父は顔を歪め、重々しくうなずく。
(挨拶はきちんとしないといけないよ)
と続くはずだったぼくの言葉は心中でのみ続いて、ため息と共に消えた。
「おはよう、音伽」
「おはようございます聖次さま」
音伽は、もう一度を挨拶をして、僕にした時と同じように頭を下げる。
「本日の卵は如何いたしましょう」
「…スクランブル」
返事をして、そのまま後ろに一歩下がる。同時に、聖次がこちらに向き直って笑いながら言う。
「ちゃんと挨拶したでしょう。請弥兄さま」
聖次は僕とは笑顔で言葉を交わすけれど、僕以外の人に対してはまったくと言っていいほど笑顔を見せることはなく、必要最低限の言葉しか交わさない。
それも、ぎりぎりになってからか、僕に促されなければはなさない。
それもまた、いつものことだ。
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