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《1》
『お母さん、ねぇお母さん起きてよ!お母さん、お母さん!!!!』
小さな銀髪の少女は隣に眠る、女性に向かって必死に呼びかけていた。
視界が開かれた時、目の前にそれが現れ、その声が聞こえ、私はびっくりした。
(これは…あの日の…)
間違いない、これは私だ。あの日、母が亡くなったあの日の朝のワンシーン。
小さい私は隣に眠る母を揺さぶる。
『お母さん、お母さん!…ううっ…』
昨日まで暖かかったのに、昨日まで呼びかけたら答えてくれたのに。
その事実が小さい私を焦らせる、冷たく、固くなった母を彼女は呼び続ける。
(ちょっと、私、そんなことしてる場合じゃないでしょ、お父さんを早く呼んで!ねぇ!ねぇったら!)
『お母さん、お母さん!!』
けれど私の声は彼女には聞こえない。呼びかけはただ自分の耳に響くだけだ。
「お母さん…おか…さ…」
(…!?)
ふと彼女の声が弱くなり、視界は暗くせまくなっていく。
(ちょっと待ってよ、まだ間に合うかもしれない、ちょっと待って…)
私は奪われていく意識にあらがうように手を伸ばし、近づこうとするが、その手は伸ばしても伸ばしても辿り着く事はない、伸ばす度に逆に距離は長くなっていく。
(お母さん!!お母さん!!)
今度は私が叫ぶ。精一杯に叫ぶ。けれど届かない。いいや届くわけがない。
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