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「それにしても…」
「うん?何?」
恐る恐る、布団から顔を挙げると、ティナはにやりと笑いながら私の顔を覗き込んでいる。
「お母さんって叫ぶだなんてよっぽど恋しいのかしら?シズクも案外可愛いね」
「…!?」
冷やかすように言った彼女とは裏腹に私は一瞬息が出来なかった。やっぱりそう叫んでいたのか。
その事実もそうだが、何よりも、彼女の今の一言は痛かった。
(そうか…、恋しいんだ…そっか…)
自分でも気付いていなかった。
私がこうして夢見て、母の名を叫ぶというのはつまり母が恋しいのだ。
もう亡くなって、悲しみを乗り越えて、良い思い出だけを抱いていようと思っていたけど、実質はなるほどそうなのかもしれない。
「そうかもね…、時々本当にたまらなく恋しくなるよ。いてくれてたら私の人生も変わってたのかなって思う時あるしね」
私は苦笑いになっていると分かりながらもできるだけの笑みを作り彼女にそう返事する。
「ご、ごめん…私知らなかったから…」
その言い回しに後悔したのはすぐだった。
ティナは私の言わんとする事を察したらしくいつもの余裕の笑みからかなり眉を落とし、かろうじて苦笑いを浮かべた。
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