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私は走って帰った。
ひたすら、ひたすらに走り、家を目指していた。
ヒュルルル
冷たい風が頬を叩き、そのまま通り過ぎていく。
「さぶい…」
風の冷たさに私は立ち止まり、頬を撫でる。
冬も半ば過ぎ、寒いのは当たり前、その上、私の住むサウス地方の町“プルト”は海に面した港町で、冬の今は特に底冷えするのだ。
そして、さらに今日はそんな冬の中でも特に寒い一日だった。
息を両手にはぁーと吐いて温めてから私は再び走り出す。
(もう帰ってるかな?)
胸をドキドキさせながら私は走るスピードをさらに上げ、家を目指す。
数分後、いつもより五分くらい早い帰宅だった。
私はドアを思いっきり開け、元気良く声を上げる。
「ただいまーっ!お母さん!帰ってるー?」
「ええ、帰ってるわよ。シズク」
自分と同じ銀髪を腰まで伸ばしている母は白い雪のような顔に二つの山と一つの谷を描く。
「お母さん!!」
私は少し遠慮がちに母に抱きついた。
「シズク、ただいま。あとお帰りなさい」
ぎゅっと強く抱きしめられ、私は嬉しい半面で、あることが頭に過る。
(また細くなってる…)
母が病にふけてから一年。入退院を繰り返す母の腕も、腰回りも、以前の母からは考えられないほど痩せ細っていた。
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