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アトリエの扉を開けると、油絵の具特有の臭いが溢れ出て来た。
もう慣れたとはいえ、やっぱりちょっときつい。
「えっと……」
きょろきょろと部屋を見回してみたけど、唯の姿は見当たらない。
「唯、ここにいるんでしょう? ……あ」
仕方なく呼び掛けたその時、部屋の奥から物音がした。
少し早歩きで音の方向に向かうと、そこには案の定唯の姿が。
「何やってるのかと思ったら……よくそんな古いもの、見つけたわね」
唯は部屋の奥にしまい込まれていた古いキャンバスを引っ張り出して、じっと眺めていた。
……昔、私が描いた絵たちを。
「昨日、この部屋に来た時に偶然」
日に焼けて少し色を変えてしまったキャンバスを、唯は興味深そうに見つめる。
……やだなあ。
「そんなもの見たってつまんないわよ。失敗したやつだもん」
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