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「そーたにぃは、どーしてかのちゃんスキになったのー?」
やけに拙い口調で兄さんに尋ねているのは、まだ小さかった頃の双子の姉だった。
僕はその横で兄さんの顔をじっと見つめながら、姉と一緒に答えを待ち続けている。
兄さんは少し顔を赤くしながら、照れくさそうに頭を掻いた。
「ねー、なんでーっ?」
「……その、それは……」
「そーたにぃちゃん」
くいっ、と兄さんの服を引っ張りながら、小さな声で話し掛ける。
困った様子だった兄は、首を傾げながら僕と目線が同じになるまで身を屈めてくれた。
誰かさんは、ムシしたーっ、と頬を膨らませて文句を言っていたけれど。
それに構わず、僕は素朴な疑問を投げかけた。
「かのちゃんのこと、すっごくだいじ?」
「……あぁ。
すごく、大事だよ」
「ぼくたちと、どっちがたいせつ?」
「そんなの、比べられる訳ないだろ?
どっちも、比べられないくらい大切だよ」
「いーなぁー……そーたにいちゃん」
ぼそりと呟いた僕の言葉に、兄さんだけでなく隣で拗ねていた双子の姉も、きょとんとしながら目を丸くしていた。
「……どうしたら、だれかをスキってなれるの?
ぼく、わかんない。
そーたにぃちゃんとか、みおとか、ちさとねぇちゃんとか、おかあさんとか、おとうさんとか。
みんなスキだけど……ほかの子、あんまりスキってなれない」
しょぼんとしながら俯く僕の頭を撫でながら、兄さんはふっと微笑んだ。
何故か涙目になっていた僕は、ゆっくりと顔を上げながら高い位置にある兄さんの目を見つめる。
その目を優しく細めながら、まだ小さな僕の肩に大きな手を置いた。
「お前も、大人になれば……。
今の俺と同じ年になったら、きっと解るさ」
―――あれから、十一年。
高校生になった僕は、未だに兄の言った言葉の意味が解らないまま。
形のない大きな傷を、その心に抱えていた。
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