孤愁の彼方に君がいた

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「あの……貴方ですか?」  自身の妄想が作り出したと思われるその天使は、俺に言葉を投げ掛ける。  耳に届くその言葉の節々には、何処か聖歌を歌う聖女のような清らかさがある。俺が何処か高揚して顔を赤くしていると、天使が再び俺に声を掛けた。 「……貴方ですよね? ――――――さん」  名前の部分のみぽっかり抜けたように俺の耳には届かなかった。なのに俺はその言葉に肯定の意を示す言葉を口にする。 「そうですか……よかったです。此処に居てくれて……」  天使の眩しいほど美しい笑顔が見えてしまうと、俺はやはりチキンと言う奴なのだろう、極力その顔を見ないように目線を逸らしてしまう。  そんな様子に天使は気付いている様子はなかった。ただただ俺を見付けたことが嬉しいようで、笑顔を俺に向けてくるだけだった。 「……行きませんか? 私と一緒に」  突然そんな言葉が俺の耳に届くと、目の前には天使の白く、まるで雪のような純白さを持った腕が突き出される。  何時もの俺なら戸惑うはずのそれを俺は、無意識なのか、直ぐに掴んでしまう。 「……お帰りなさい――――」  そこにはもう誰もいなかった。 ━━━━━━━━━━━━━ 【結】あぐぐ
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