前編

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 だが、もう僕にはそれすらも茶番に見えた。もともとプロットモン達を僕の人質のように扱っていたグリズモンがあんな台詞を言ったのも、それを契機に盛大な殺し合いをはじめたことも。  ――人型が残忍で獣型が野蛮だとかそんなこと以前に、この場にいる全員が残忍で野蛮だったという事実も。 「ロップモン、プロットモン、パタモン……ソーサリモン、分かったよ。悲しいことに、これが僕達の真実だって」  人型(ヒューマン)が残忍なのではない。獣型(ビースト)が野蛮なのではない。電子の怪物(デジタルモンスター)という生命体自体が残忍で野蛮な性質を持っているのだ。  それこそが。怪物(モンスター)たる僕達の本性なのだ。  だったら僕も怪物らしく本能に従おう。守りたかった人も、守りたかった獣ももういなくなってしまった。地獄の業火のごとく燃え盛る怒りは僕のちっぽけな理性では抑えられそうにない。  両手を静かに合わせてゆっくりと離していく。その中には小宇宙が形成され、十個の超高熱球が神々しく光る。その様を確認した僕は記憶の奥底に埋もれていた言葉を口にする。 「グランドクロス」  その瞬間、この世界から村がひとつ消えた。  思い出した、自分がどういう存在なのか。理解した、自分が何をするべきなのか。  人型も獣型も等しく愚かだ。それぞれ比べていがみ合うことすら馬鹿馬鹿しい。どちらも残忍で野蛮で愚かな怪物なのだから。  でも、その考えに至ったものはそうそういない。誰もが自分自身が正しい高潔な存在だと考え、憎悪の対象となったものが愚かなのだと決め付ける。  ソーサリモンから聞いたところによると、どこかの世界のどこかの古都には「汝自身を知れ!」という言葉が石碑に刻まれているらしい。――そう、知らなくてはいけないのだ。自分自身のことを。電子の怪物(デジタルモンスター)のことを。  ――だから、僕がこの世界を導く。人型と獣型のどうしようもない争いもない、自分こそが正く高潔な存在だとほざく傲慢なデジモンが存在しない世界へと。
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