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ソーサリモンが死んだ。たった今、僕の目の前で。
彼の血が飛び散り僕の六枚の羽を赤く染めた。無愛想だけど誰にでも平等に優しかった彼の面影も、いまや肉塊となり、徐々にデータの粒子と化して消えていく。
「人型(ヒューマン)のくせに手こずらせおって……」
ソーサリモンを殺した白い獣――ムースモンが憎々しげに何か言っていたが、よく分からなかった。
ただ目の前の現実を受け入れられなかったから。ソーサリモンは死んだと認識はしたが、受け入れられるわけが無い。
彼が何をしたというのか。なぜ殺されねばならなかったのか。
「な……んで……」
やっと漏れたのは掠れそうなそんな声。それでもその言葉が言えただけでも十分だと思う。
「なんで……だと? こいつが人型だからに決まってるだろう! 人型は残忍な種族。こちらが先に殺らなければ、我等崇高な獣型(ビースト)がその手に掛けられるのだ!」
何を言っているんだこいつは。ソーサリモンが残忍な奴だと?
「そ……んな……」
そんなわけ無い。ソーサリモンはそんな奴じゃない。彼は荒野で行き倒れていた僕を助けてくれた。見ず知らずの僕の面倒を見てくれた。いつも優しく僕を見守ってくれた。
「お前に……」
今日いきなり家に来て、無抵抗なソーサリモンを殺したお前に。
「見たところ……貴様も人型のようだな。ならば生かしてはおけない。消えてもらう!」
「お前に……」
荒野に打ち捨てられていた僕に、生きる意味をくれたあの人を殺したお前に。
「ソーサリモンの何が分かるんだよおぉっ!!」
「な、何っ……」
ふざけるな。お前だけは許さない。ソーサリモンが残忍な人型だからと言って殺したお前だけは!
「うああああああっ!!」
怒りに身を任せて叫ぶと、カチリと理性の箍たがが外れた音が聞こえた。自分がとんでもないことをしでかすであろうことも。
それから数分間の記憶はない。意識も完全に吹き飛んでいた。
「――うあ……ぁぁ……」
我に返った僕が見たのは、跡形も無く吹き飛んだ我が家と、体の中に仕込まれていた爆弾が爆発したのではないかと思うほどにばらばらにされ、一切の原形を留めていないムースモンの死骸だった。
「はぁっ……あっ……」
動悸が止まらない。手が、羽が、ムースモンの血で深紅に染まった。……嗚呼、間違いない。こいつは僕が殺したんだ。僕がこの手で。
「はぁっ……はっ……ははっ……」
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