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そう思うとなんだか自然と笑えてくる。それが虚しいものだとは分かってるけど。
「ははっ……あははははははっ!」
それでも止めれなかった。笑いを止めたら完全に正気を保てなくなる気がしたから。端から見れば、もう正気には見えないかもしれないけど。
「あははははは――」
ムースモンは人型を残忍だと言ったが、その人型を躊躇いも無く殺す獣型も残忍じゃないのか。ソーサリモンのような人型もいるのに。
無抵抗な人型が殺される理由などないはずだ。だから、僕はそんな獣型を憎悪する。
――でも、僕だけはムースモンの言った通りの残忍な人型なのかもしれない。
荒野を当ても無くただ歩く。何度か転んだがまた立ち上がって歩く。どこから来て今どこを歩いているのかなんて分からない。
一時空腹を覚えたこともあったが、もうそれすらどうでもいい。このまま何も食べずに歩けばそのうち死ぬんだろうな。……それでもいいな。
足がふらつく。動きが緩慢になる。意識が朦朧とする。この世界から離れていくようだ。
確か二か月前、ソーサリモンに拾われる前もこんな感じだったっけ。
――でも、彼はもういない。僕の目の前に再び現れることもないだろう。
「ふふっ……」
だったらもうどうとでもなれと、小さく苦笑を漏らして僕はその意識を手放した。
「――う……うぅ……」
どこからか聞こえたその呻き声が自分のものだと気づいた。体に触れる柔らかなこの感触は絨毯? 僕は荒野にいたはずじゃ……。
「――気がついたんだな。このスープを飲みな」
「あ……」
上から投げ掛けられた声に反射的に顔を上げた僕は固まった。なぜなら、そこにカップを突き出すソーサリモンの穏やかな姿が見えたから。
二か月ほど前のあの日のように、荒野に転がっていた僕を拾ってくれたのだろうか。また、僕に暖かいスープを飲ませてくれるのか。そして、またいっしょに生活して僕の生きる意味となってくれるのだろうか。
そう思おうとしたけど、本心では分かっていた。そんなことはありえないと。。
ソーサリモンは殺され僕にてもういない。おそらく僕が無意識にその誰かをソーサリモンに重ね合わせただけだろう。 今一度、彼が死んだことを受け止め、一度まばたきをしてその声の主を見据える。
「どうかしたのか?」
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