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声の主であるそのデジモンを見上げる形になっているのは僕が寝転んでいるからであって、そのデジモンが僕より大きいわけではない。むしろ僕より小さいくらいだ。
二頭身ほどの茶色い体に、それと同じくらいの大きさの耳をぶら下げている。その耳を器用に使って僕にスープの入ったカップを突き出しているようだ。
つぶらな瞳で見つめるその愛らしい姿に少しほっこりしたが、その風貌からこのデジモンには僕との決定的な違いがあるのが分かった。
毛髪の代わりに頭部を覆っている薄い体毛。物を掴むことに特化しているとは言いがたい両手。それ以外にも、明らかにこいつが僕ら人型デジモンとは違う点がある。
――こいつは獣型だ!
「うあ……」
そのことに気づいた途端、急に動悸が激しくなって、嫌な汗が止まらなくなった。あの時のことを思い出して凄まじい恐怖が僕の全身を包み込んだのだ。
こいつも獣型なのだったら、あのムースモンとやらがソーサリモンを殺したように僕を殺してしまうのだろうか。……間違いない。獣型は人型を残忍な種族だと決めつけて殺す、残虐な種族なのだから。
――僕が殺される?
嫌だ、死にたくなんかない! 一時は死を受け入れようとしたときもあったけど、やっぱり死にたくない。まだ、こんなところで死ぬのは嫌だ! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ――
「うああああっ!」
「おわっ……」
気づけばその耳を振り払っていた。コップに入っていたスープらしきものがあたりに散らばる。獣型デジモンは怒っているというより、どうしようかと判断を迷っているように見えた。
こっちもどうしようかと思案していると、彼の奥からまた誰かが姿を現した。
「ったく……なにしてんのよ」
それは垂れ耳が特徴的な白い小さな体の四足歩行のデジモン。ホーリーリングという金色の輪――僕の四肢にもある――を首につけているようだ。指の見えない足をぺたぺたとつけながらこっちに近づいてくる。……何をする気だ。
と、思ったら彼女は雑巾でこぼれたスープを拭きはじめた。……なにもしてこないのか?
「僕も手伝うです~」
ぼうっと見ていたら、また誰か現れた。慣れたようであまり驚きはしなかった。
今度の奴は黄色い体のこれまた四足歩行のデジモンだった。その小さな羽根で不安定ながらに飛んでいた。
「なんなんだ……」
僕がそう漏らしたのを聞いた長い耳のデジモンがふっと笑って問いかける。
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