前編

6/12
前へ
/30ページ
次へ
 パタモンの声が聞こえたな。村共同の畑仕事を終えて帰ってきたようだ。ロップモンとプロットモンもその後ろにいる。  ちょうどいい。聞きたいことがあった。 「お帰り。……ちょっといいか」 「何よ。改まって」  プロットモンが軽く笑っているが、僕の言わんとすることがなんとなくわかったようだ。ロップモンも顔を渋くしている。 「やっぱり……無理かな」 「厳しいな。人型への偏見が強すぎる」 「そうか……」  僕がこの村にいるのを知っているのはこの三人だけ。彼らに匿われているような形なのだ。だから、僕は他の獣型とも関わりたいと思った。いつまでも誰かの目に隠れていたくはない。我ながら大きな進歩だと思う。  でも、現実は厳しい。先述の通り、この村の人々は人型に良い印象を持っていない。というか、憎悪の対象だ。何が始まりかはもう分からない。それでも、人型が悪だという固定概念を植えつけられた彼らは憎んでしまうのだ。 「悲しい話ですー」 「そうですね」  そんな風に思える彼らがこの世界では異端なのだ。……事実、僕も彼らと会うまでは獣型は恐怖と憎悪の対象だった。だからこそ、僕はさらに聴きたいことがあった。 「気になったんだけどさ。なんで君達はそんな風に人型を憎まずにいられるんだ?」  それは本心からの問い。ずっと前からそれが気になっていた。  すると、彼らは急に沈黙した。一気に気まずくなったが、何か触れてはいけないものに触れてしまったのだろうか。 「なんで、ねえ。……あの事件があったからね、たぶん」 「あの事件?」  やはり、何かに触れてしまったようだ。とはいっても、いまさら引き下がることも許されない雰囲気だ。聞くべきだというのか。  まごついている間に、プロットモンのいうあの事件についてロップモンが語り始めた。 「俺達はこの村の出身じゃない。だいぶ昔に引っ越したんだ。……獣型デジモンのみが住むその村で暮らしていた当時、俺達にはもう一人仲間がいたんだ。ツカイモンというパタモンの色違いのようなデジモンだった。おっとりしたパタモンとは違って陽気で、テンションの高いデジモンだったんだ」  意外だった。ずっと三人で過ごしてきたのかと思ったが、そうではなかったのか。 「ツカイモンと俺達は仲良く暮らしていたんだが、ある日あいつに大きな異変が訪れたのです」  デジモンに訪れる異変――思いつくのは一つしかない。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加