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「ごめんな、錫。仕事なんだ…。」
「だいじょーぶだよ。パパは大きな会社のしゃちょーさんだからいそがしいんだよね?」
寂しそうにウインナーをフォークでつつきながら、まだ幼き少年は言った。
「でも、でもな、錫!クリスマス、クリスマスの夜には三人で過ごせる。母さんも明日の朝には日本に帰ってこれるって連絡があったからな、なっ?」
いつもは錫のそばに誰かしら一緒にいたクリスマス…。
しかし、その年は一人きりにさせることとなってしまった。
もちろん、愛する息子を一人きりにさせることは凄い罪悪感を両親はもっていた。
しかし、その年の春、友達の家に向かう際、誘拐されそうになってから、友達の家に預けるよりセキュリティーシステムが張り巡らされた自宅に留守番させる方がよっぽど安心だという極論に陥ってしまっていた。
「いいか?知らない人は決して…」
「入れない!」
「怪しい人には…」
「いるすをつかう!」
―大丈夫。錫は賢い子供だ…。どんな事でも、大人顔負けの判断力で対処するはずだ。
父親はそう自分に言い聞かせると息子の髪をくしゃくしゃと撫で、大きな鞄を持ち、家を出た。
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