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「おい、まだ残る気か?」
パソコン越しにかけられた声に顔をあげると、辰巳さんが立っていた。
時計に目をやると既に0時を回っていた。
「うわっ!集中し過ぎた!!」
私は慌ててデーターの保存をして、いそいそと帰る準備を始めた。
「お前泊まり込みでもするのかと思ってた。」
「そこまでしません。今日はもう帰ります。」
いつの間にか、室には私と辰巳さんだけになっていた。
廊下に出ても電気は消えていて薄暗い。
下の工場からはラインの製造の音がしてた。
夜勤当番に声をかけ、辰巳さんと一緒に駐車場へと向かった。
「もしかしてお前企画の練り直ししてた?」
「してました。」
そう言って手に持っていた今朝の資料を辰巳さんに差し出した。
代替えの利く物、増設ではなく改良で動かせるラインその他もろもろ。
少しでもラインで働く皆に負担が少なく済む様に、と埋め尽くされる程の書き込みをした資料を見ながら、辰巳さんは大きなため息を漏らした。
「何か文句でも?」
「いや、お前らしいなと思って。」
「なにが??」
「ラインで仕事してる奴らの事を一番に考えてるなと思ってさ。」
「当たり前です!!一番負担が行くのはラインの皆なんやから。」
「その分こうやってお前が無理して、これも設備に頭下げに行くんやろ?」
「私が頭下げてそれで済むなら1日中でも下げる。」
資料に落としていた視線を私に移した辰巳さんは、ぐしゃっと無造作に私の頭を撫でた。
「だから俺はお前をTLにしたんだ。」
その優しい目に私はこの上司を持てて幸せだと思った。
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