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溜め息をつくと、肩の力が一気に抜けた。空には白い雲が浮かんでいる。ゆっくりと流れるそれを見ていると、今までのことが思い出される。
山寺を抜け出し、京で油屋に婿入りした。それから、日ノ本の真ん中にある美濃に入り、治めていた土岐頼芸に取り入って、その側室を譲り受けた。そして頼芸を追放し、美濃の主になった。
思えば、壮絶な人生だ。特に後半は、稀に見る国盗り物語だと思う。
俺の夢は、天下を盗ること。俺の名を天下に知らしめること。そして、万民に幸福をもたらすことだ。ただ、時間が足りなかったらしい。まさか、育ててやった子に殺されるとはなぁ……。
だがな義龍、お前では俺の跡を継ぐことはできないだろうよ。十兵衛がこの国を取り返し、天下に名乗りを上げるだろう。そして、さらにその意思を継ぐ者が天下を納めることになるだろう。
いや、もしかしたら尾張の婿殿かもしれん。正徳寺で見た婿殿の姿は、実に立派であった。あの二人が手を組めば、どんな敵でも打ち勝つことができるだろう。
草木の揺れる音と、馬蹄の轟く音がする。敵兵がとうとう来たらしい。
俺の命も、ここまでか……。
「お館さま……」
「おぅ、源太か」
声のした方を見ると、前に俺のところから出奔した小牧源太がいた。出奔といっても、俺が死罪を取り下げ、逃がしたのだが。
「お味方は潰走しました。降伏されよ」
「断る」
立ち上がって刀を抜いた。白銀の刃が、光を受けて鈍く光る。
ここで命を拾ったところで、義龍に斬られることは明白だ。最期くらいは、恰好良く死にたい。
俺の死を以て、十兵衛や婿殿の天下への野心を向上させるのだ。
刀を構えると、源太も刀を向けてきた。
「見事、俺の首を獲ってみせよ」
叫んだ。これが最後の言葉だ。最後の抵抗だ。
何度か刀を交える。俺が押せば、源太も刀を握る手に力を入れる。
しばらくぶつかり合う。
そろそろ疲れた。ふっ、と全身の力が抜ける。
その隙に、源太に倒された。見ると、既に源太は首をとるための腰刀を抜き払い、振りかぶっている。
あぁ、俺は死ぬんだな。漸く、実感が持てた。
あとは頼んだぞ、十兵衛。婿殿。
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