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もう使われなくなってから三十年を数えようかといった元娯楽施設。
ヘルスセンターと呼ばれていた時代には、其処で行われている様々な催し物や、大規模な入浴設備の助けもあり、日に一万人を下らない入場者数を誇っていたそうだ。
全盛期、ってやつがそうさ。
それが使われなくなった翌年には、誰言うでもなく「廃虚」と呼ばれるようになっていた。
そしてその廃虚には、幽霊が出る、と。
何を隠そう僕自身も、ヘルスセンターと聞いて先ず最初に思い浮かぶのは幽霊だった。
本当に出るんだから、と噂は噂を広め、実際には足を運んでいない者までもがそう囁いていただろう。
僕は何処にでもある都市伝説の類いとしか思っていなかったから、わざわざそれを確かめに車を走らせるのも面倒だと、その話題を記憶の隅に追いやった。
それが何年か経ち、僕に彼女が出来、その彼女の口から再びその名を聞くなんて、思ってもいなかったんだ。
「ねぇ、この話憶えてる? ヘルスセンター跡に落武者の幽霊が出る、ってやつ」
「――なんだよ急に。それって、所詮は根も葉も無い噂話だろ?」
「霊感のある友達がさ、彼処は危ないから近づくなって言うのよ。私も信じてなかったクチなんだけど……彼女は嘘なんてつかないし……」
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