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僕の解答に、彼女は大きく首を横に振る。
酷く怯えた彼女は震える指先で一点を指し、
「――風なんて、吹いてないから。それに……あれは何?」
落書きだらけの正面入り口。僅かに灯りを右へと振ってみる。
入り口横の大きな柱。
其処にも、落書きが在った。
在ったが、其処に書かれている文字を読んだ僕は、身体を硬直させてしまったんだ。
上を、もっと上を見ろ!
それを見たら早く逃げろ!
お前の直ぐ傍にも居るからな!
初めてだった。何かを見るという、たったそれだけの行為が、とても恐ろしい行為に思えたのは。
だけど、懐中電灯を持った右手と、首から上だけは自然と動いていた。
好奇心が、見た事のない、存在する筈のない、僕が認めようとしない、アレを見てみたいと身体を動かしていた。
懐中電灯で照らし出された場所は小刻みに揺れている。
僕の腕が震えている為だ。
その照射面を真上へと向ける。
穴の空いた窓が横一線に並んでおり、その穴からは――
白い腕が伸びていた。
一本、二本……数えられないほど無数の腕が、建物から這いずり出そうともがいていたんだ。
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