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「ひいっ!」
後退りした僕は、背中に隠れていた彼女にぶつかり転びそうになった。
同時に、目の前にあるコンパネが、ドンドンと激しく打ち付けられ、その表面が徐々に膨らみ始める。
「に、逃げよう! 早く!」
言葉を失っていたのは彼女も同じだった。
ワナワナと震える肩と、目を見開いたままガチガチと歯を鳴らしている姿。
僕は彼女の返事を待つ事なく、その凍えた腕を取り、潜ってきた穴へと走ったんだ。
必死だった。
なりふり構わず走り続けていた。
その最中にあって、僕の耳は死人達の呻き声で溢れていたんだ。
敷地内の、建物全体が呻き声で犇めいていただろう。
「もう駄目!」という彼女の腕を強引に引き、「あと少しだ!」と勇気づける目的で叫んでみたが、誰か助けてくれと心の中では念仏のように呟いていた。
気が付けば、僕は穴の中へと身体を滑り込ませていたんだ。
外から運ばれてくる空気はひんやりと冷たく、それでも敷地内に流れている不穏な空気よりはマシだと感じた。
そして開かれた空間が目に飛び込んでくる。
助かった――
そう思った瞬間、壁の向こうにはまだ彼女が居るのだと、身体を翻し腕を伸ばしたんだ。
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