【好奇心】

8/10
前へ
/10ページ
次へ
「ひいっ!」  後退りした僕は、背中に隠れていた彼女にぶつかり転びそうになった。 同時に、目の前にあるコンパネが、ドンドンと激しく打ち付けられ、その表面が徐々に膨らみ始める。 「に、逃げよう! 早く!」  言葉を失っていたのは彼女も同じだった。 ワナワナと震える肩と、目を見開いたままガチガチと歯を鳴らしている姿。 僕は彼女の返事を待つ事なく、その凍えた腕を取り、潜ってきた穴へと走ったんだ。 必死だった。 なりふり構わず走り続けていた。 その最中にあって、僕の耳は死人達の呻き声で溢れていたんだ。 敷地内の、建物全体が呻き声で犇めいていただろう。 「もう駄目!」という彼女の腕を強引に引き、「あと少しだ!」と勇気づける目的で叫んでみたが、誰か助けてくれと心の中では念仏のように呟いていた。  気が付けば、僕は穴の中へと身体を滑り込ませていたんだ。 外から運ばれてくる空気はひんやりと冷たく、それでも敷地内に流れている不穏な空気よりはマシだと感じた。 そして開かれた空間が目に飛び込んでくる。 助かった―― そう思った瞬間、壁の向こうにはまだ彼女が居るのだと、身体を翻し腕を伸ばしたんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加